はじめに
「右の腰が楽になったと思ったら、今度は左が痛くなって……。先生、これって悪化しちゃったんでしょうか?」
施術をしていると、このようなご相談をよくいただきます。痛い場所が移動すると不安になりますよね。でも実はこれ、身体が壊れたわけではなく、むしろ「回復のプロセス」でよく起きる、とても健気な反応かもしれません。
こうした変化は、筋肉の代償動作や神経の感受性の変化によって起こると考えられています。 今日は、私たちの身体の中で起きている「舞台裏」のうち3つ程考えてみましょう。
1. 緊張の糸が切れた時に出る「隠れ疲労」
仕事が忙しい時は気が張っていて元気だったのに、休みに入った途端に風邪をひいたり、寝込んだりすることはありませんか?
あるお店の方に伺った面白いお話があります。「毎日ずっと寒い日よりも、急に寒くなった日の方が、パタリとお客さんの足が止まる」のだそうです。これは暑さや雨でも同様だそうです。人間は、一定の状況には耐えられても、「変化」に対応しようとする時に、ものすごくエネルギーを使う生き物なんですね。
身体も全く同じです。 一番痛い場所をかばって、必死に「助っ人」として働いていた筋肉たちは、メインの痛みが和らいでホッとした瞬間、あるいは環境がガラッと変わった瞬間に、ピンと張っていた緊張の糸が切れてしまいます。
「やっと自分の番(休み)が来た……」と思った途端に、溜め込んでいた疲労がどっと溢れ出す。痛みが移動したように感じるのは、今まであなたを支え続けてくれた筋肉たちの「お疲れ様」の声なのかもしれません。
2. 「一番の主役」が引退して、二番手が顔を出す
次に、脳の「スポットライト」のお話です。 身体は一度にたくさんの痛みを感じるとパニックになってしまうため、一番深刻な場所にだけ光を当てて、他の小さな痛みはあえて背景に隠しておくという賢い仕組みがあります。
一番の主役(強い痛み)が治療で和らいで引退したことで、今まで隠れていた「二番手の痛み」に、ようやく脳が気づけるようになっただけ。そうした経過をたどるケースは少なくありません 。
3. 脳という「司令塔」の優しい防衛本能
最後に、これらをコントロールしている「脳」という司令塔の存在です。 もし、両方の膝や腰が同時に激しく痛んだら、私たちは一歩も歩けなくなってしまいますよね。
脳はそれを防ぐために、あえて片方の痛みをセーブしたり、負担を別の場所に逃がしたりして、なんとか「歩く」という機能を守ろうとします。打撲のような「構造の怪我」であれば痛い場所は動きませんが、筋肉や神経の痛みが移動するのは、脳が必死にあなたの生活を守ろうと、絶妙なバトンリレーを繰り返しているからなのです。
接骨院は「警報機を止める」専門業者
ここで一つ、不思議に思いませんか? 「脳がコントロールしているなら、接骨院は何をするの?」と。
実は、痛みとは身体が鳴らしている「火災報知器の警告音」のようなものです。 どこかで異常が起きると、脳という管理センターが「火事だ!守れ!」と警告音(痛み)を鳴らします。ところが、火が消えかかっても、警告音だけが鳴り止まないことがあるかもしれません。
私たちの仕事は、現場に駆けつける「保守点検の専門業者」です。 固まった筋肉をほぐし、動きの悪い関節を整え、「もう火は消えましたよ、安全ですよ」という確かな報告を脳に届けます。
原因が特定され、現場が整ったことを脳が確認してはじめて、脳は安心して警告音のスイッチをオフにしてくれるのです。
最後に
痛みが移動するのは、あなたの身体が不器用ながらも一生懸命にバランスを取り、次のステップへ進もうとしているサインです。
一方で、しびれが強くなってきた場合や、力が入りにくいなどの変化がある場合は、別の問題が隠れている可能性もあります。そのような場合は注意が必要です。
不安な変化も、身体の状態を知るヒントになります。気になる変化は、そのままにせず記録しておくことをおすすめします。
「次はここが痛くなりました」という声は、私たちにとって「身体がどう変わろうとしているか」を教えてくれる大切なヒントになります。どうぞ不安にならず、その変化を一緒に読み解いていきましょう。
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